点訳アラカルト


第32回 点訳は翻訳か?
2004.10.1


点訳をする場合墨字の情報をできるだけ忠実に点字に反映させるべき…と、いうことについては特段に異論はないと思われますが、何が「忠実」なのかとなると、色々意見が分かれるようです。 

先日トニカオフィスで議論になったのですがNさんの考えは、『点訳は一種の翻訳ではないか。翻訳に直訳と意訳とがあり、どちらが正しいと言いきれない。例えば、フランス語の「bon soir」は直訳すれば「良い夕方」だが、夕方逢った時の挨拶なら「今晩は」だし、別れる時の挨拶なら「さようなら」になる。文字通り「素敵な夕方」と訳すべき時もある。前後の関係で適切な訳を選べばよいので、一義的に訳すことはない。常に解釈と判断が伴う。点訳もそれと同じで、五線譜を見て点字に移し替えるその過程で常に、解釈・判断が必要である。要は背後にある音楽という実体が、如何に点字に反映されるかが問題。』というのです。

その延長として例えば、「Sul G」を弦記号で書いてよいかとか、4/4を「C」と書いてよいか、というような問題についてもNさんの考えでは、実体が同じなのだから「Sul G」のままでも、弦記号で書いても構わない、4/4と書いても「C」と書いても同じ、という考えになります。

それに対して、
(**) 点訳は翻訳と違う。変体仮名を現代表記に直すのと同じ・・・いわば、翻字とでもいうべきもの。
(**) 実体が同じでも、見た目は違うのだから、「Sul G」を弦記号で書いたり、4/4を「C」で書いたりというのは、すべきでない。
(**) 翻訳の場合、フランス語の原文を見ることができるが点訳を読む人は、五線譜を見ることができない。
(**) 点訳者の主観が入るようなことは避けるべき。
(**) 点訳が翻訳だと考えると、点訳者の音楽的素養や性格で恣意的になるおそれがある。 
というような反論が続々と出て来ました。

しかし、Nさんもすぐには譲りません。例えばギター譜で「C7」とあるとまず、これは7ポジションのセーハなのかコードネームなのか判断する。そしてコードネームと判断すると、それをコードシンボルに置き替えて書くという作業をする。(ただし、トニカでは、コードシンボルは使わないようですが。)これは「Sul G」を弦記号で書くのと同じようなものではないか、という訳です。

翻訳の場合原文を見られるというけれど通常原文を見ても判らず、訳者に説明して貰う必要がある。それなら点訳の場合でも点訳者に説明してもらうのと同じではないか、というのです。

点訳者の素養などで恣意的になる、という点については恣意的では具合が悪いが、点訳者の知識とか性格で成果に差ができるのは止むを得ない。もともと知識、素養がないと翻訳はできないというのがNさんの考えだからです。(この辺、議論が堂々めぐりしてしまいますが。)

侃々諤々の議論の末、「原則として、”見たまま”。ただし、ケース・バイ・ケースで、意訳的になることも有り得るかも知れない。いずれにせよ、トニカの勉強会のような機会に議論を深めたらよいのでないか。」という結論に落ち着きかけたのですが・・・・・・。

と、それまで静かに聴いていたベテランのHさんが、「マア、難しい議論も結構ですけれど、音列の付け間違いや、ドとミ、ソとシの間違いなど無いようにして下さいネ。」とやんわり釘を刺したので、トニカ歴3年になるのに未だにそういう初歩的ミスの多いNさんは、シュンとなってしまったのでした。
以上
トニカ会員
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