点訳アラカルト


第34回 トニカ会員になって・・・トニカでの1年間
2005.3.10

昨年の手帳に、「6月22日、はじめてトニカに行く。小さな部屋でとても熱心に作業する女性がまぶしかった。」とあります。嬉しいことに、今では私もその女性の一人になれました。

インターネットでボランティアを検索しているうちに辿り着いたのがトニカです。それまで楽譜点訳どころか点字についてさえ全く知りませんでした。講習会希望のメールを送ると、すぐに案内メールが届きました。講習会は6回コースで毎週火曜日に行われました。「楽譜点訳の基礎」という小冊子とトニカ独自の練習問題集を使用して、点字を手打ちしながら講義を受けます。6点で音の長さ、高さ、休符をどう表すかから、拍子、調子、速度、強弱、スラー、タイ、くりかえしまで、6つの点の組み合わせで楽譜が次々と点になっていきます。実によくできていると感心しました。講習の前日は宿題の見直し、まちがいの修正で用紙はでこぼこ、寝るのが遅くなったことも度々でした。最終日はシューベルトの「のばら」を点訳し、はじめてコンピュータを使って入力し、点字印刷をしました。これで基本は終わりです。その日の帰り道、一緒に講習をうけたメンバーとお蕎麦屋さんで内輪の卒業祝いをしたのがよい思い出です。

講習をうけた後は、都合のよい曜日を選び週に1回事務所に行くことになりました。手打ちの時は凹で覚えていましたが、コンピュータ入力が中心となり、凸で覚えるようにしました。あとは、ひたすら練習です。私は火曜日にしたので、火曜日担当のピアノ曲を中心に実際に点訳された曲を自分で点訳して練習し、手記号、パラレル表記などを知りました。並行して、点字の楽譜の印刷方法、製本、梱包や送付の時の注意点などを教わりました。そして10月に初めて本物の点訳をさせてもらいました。複雑なものではありませんでしたが、完成した時は私の"処女作”だと実に嬉しかったです。

次は、もう少し難しいものをやらせてもらいました。できたと思って校正をお願いすると、1ページにびっしり間違いが指摘されて戻ってきました。点字は、1点が違ったり、記号がぬけていたりしただけで、全く違う曲になってしまいます。何度見ても間違っていないと思ったら、二、三日ほっておいて、もう一度見なおすこと。少なくとも音ミスなどの凡ミスはあってはならないという先輩の話に、責任感とプロ意識の高さを感じ、頭が下がりました。

入会してから、楽譜点訳に対して見方が変わりました。まず、点訳は、ルールに従って訳すものだから誰が訳しても同じと思っていました。しかし、小節の切り方、部分けや、くりかえし記号の使い方、集合音符の使い方など、常に音楽と結びついて個人のスタイルが反映されます。点訳自体がとても創造的なものなのだと感じました。

次に、点訳は一人で孤独にやるものだと思っていました。ところが、長い曲や大きな物は楽譜を分けてチームで点訳します。また、点訳したものを第一校正、第二校正を通して本人以外の人の目でみて、間違いをゼロにしていくプロセスが重要だと知りました。

まだ楽譜点訳一年生ですが、私が点訳したものを使って演奏して下さる方がいらっしゃるということが、本当に誇らしく有難く思え、偶然に出会ったトニカに運命のようなものを感じています。
トニカ会員 高木保子

次回もお楽しみに・・・。
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