音楽教育振興賞:楽譜8700曲を点訳 助成部門、「トニカ」に /東京

 音楽教育の発展に貢献した団体を表彰する「第15回音楽教育振興賞」(毎日新聞社、音楽教育振興財団主催)の助成部門に、都内から「点字楽譜普及会『トニカ』」(板橋区南常盤台、松永朋子代表)が選ばれた。【安高晋】

 ◇「障害ある人も曲選ぶ権利ある」
 トニカは、東京音大ピアノ科を卒業後に同大の非常勤講師をしていた松永さん(60)が87年、「目に障害がある人にも、曲を選ぶ権利はある。それなのになぜ点字の楽譜はほとんど発行されていないのだろう」という素朴な疑問をきっかけに設立した。当時はちょうど、複製ができないタイプライターで打たれた楽譜から、データを入力・保存できるパソコンソフトによって作成された楽譜に移り変わりつつあった時代。ソフトやプリンターは、松永さんの趣旨に賛同して会員になった、ピアノや合唱の指導者らでお金を出し合って購入した。現在は50人弱の会員がいる。

 依頼は年間平均350件。依頼主は音大生やプロの演奏家、学校や点字図書館など幅広く、韓国からも声がかかるという。設立からこれまでの19年間で、クラシックから演歌まで、約8700曲の点訳依頼があった。

 オーケストラの演奏に必要な総譜の場合、1曲で、80ページが入るバインダー10冊分もの分量になる。10人近くの会員がお互いの点訳担当部分を回し合いながらチェック。1曲に2カ月近くかかることもあるという。それでも依頼者が、できあがった楽譜を使い、指で確かめながら演奏している姿を見ると充実感でいっぱいになる。

 会員は、40〜70歳代の首都圏在住女性が中心。松永さんは「仲間同士の協力があったから、続けてこられた」と振り返る。「トニカ」はドイツ語でドミソの和音のこと。「これからも『協調』を重視していきたい」と語った。

 今後は、これまでの楽譜のデータベース化とともに後継者の育成が課題。「他の団体とも連携して、点字で楽譜を作れる人を増やしたい」と目標を掲げている。
毎日新聞 2006年3月2日
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