点訳アラカルト

第49回 邦楽曲の点訳
2007.10.11掲載

これまでトニカで点訳した邦楽曲の楽譜は「箏」「十七弦」「三味線」「篠笛」「和太鼓」「長唄」「大正琴」です。その中で多いものは、三味線と箏の楽譜です。今回はこのふたつの楽譜点訳についてご紹介します。
尚、邦楽に関しては「点訳アラカルト第38回」でもご紹介していますので、一部内容が重複する部分がありますが、合わせてお読みいただければ幸いです。

通常、三味線と箏の演奏に使用されるのは「弦譜(いとふ)」といわれる「弦名譜」です。この「弦名譜」には「縦書きワク式(縦譜)」と「横書き式(横譜)」があり、それぞれ数種類あります。ともに弦の名前で音の高さを表しますが、音の長さの表し方には違いがあります。下記の弦名譜を参照していただくとイメージがつかめるかと思いますが、簡単に説明すると、縦譜は一小節を拍数で区切り、その中に弦の名前が記されています。1拍分の長さの枠に一つの弦名が記されている場合は「4分音符」、ふたつの弦名が記されていたら「8分音符」ということになります。それに対して、横譜の場合、音の長さは弦名の下に書かれる線の数で表します。弦名の下に線が記されていなければ4分音符、線が1本なら8分音符というわけです。点訳のご依頼も殆どの場合弦名譜です。トニカでは五線譜の規則に当てはめて点訳しますので、点訳の前に弦名譜を五線譜の音符に読み替える作業が必要です。

縦譜 横譜

ここで、点訳する上で最も注意が必要なことは、箏や三味線は「相対音」であるということです。これは、「絶対音」である洋楽との決定的な違いです。つまり、弦の名前で指定された音の高さは、いつも同じとは限らないのです。古曲では殆どの曲に歌詞が付いていて、今で言う「弾き語り」というようなものと思いますが、調弦法を示す「調子」によって、演奏者の音域に合わせてある程度自由に相対音で調弦されてきたようです。

次に、調弦法を示す「調子」について幾つかご紹介します。先ず、三味線の調子には「本調子」「二上り」「三下り」など数種類があります。「二上り」というのは、「本調子」の調弦より二の弦を1音上げた調弦、「三下り」は「本調子」の調弦より三の弦を1音下げた調弦です。また、箏の調子には「平調子」「雲井調子」「古今調子」など、たくさんの種類があります。「雲井調子」というのは、「平調子」の調弦より、四と九の弦をそれぞれ1音上げ、三と八の弦をそれぞれ半音下げた調弦です。三味線の「本調子」、箏の「平調子」というのは洋楽の「ハ長調」のようなものと考えていただければわかりやすいと思います。

でも、相対音ですから、「調子」だけでは弦の音の高さは決まりません。そこで、殆どの弦名譜には「調子」とともに、例えば箏の場合、「一=D」などというように、音の高さが指定してあります。稀に、音の高さの指定がないものもありますので、そのような場合はご依頼者にご相談の上、決めています。

五線譜に読み替えるといっても、私の場合は五線譜に書き直すということではなく、一音ずつ読み替えながら点訳しています。点訳にはミスをしないよう、細心の注意が必要ですが、三味線と箏の点訳の場合は、点訳の前にここで音を読み違えてしまうと正しい点訳ができません。

最後に、三味線と箏の奏法を示す記号の一部をご紹介します。まず、三味線には「ハジキ」「ウチ」「スリ」「スクイ」などがあり、箏には「合爪」「掻爪」「割爪」「押し色」「突色」「引色」「揺色」などがあります。言葉で説明するのはなかなか難しいので、具体的な奏法の説明は省略しますが、どんなふうに弾くのか想像していただければと思います。

トニカメンバーは邦楽に馴染みがない方が殆どで、邦楽曲の点訳は敬遠されがちです。必然的に箏をひけるメンバーで点訳することが多くなります。そのことをいつも残念に思っていましたが、この夏、ある学校の先生から学生さんたちの研究テーマに、箏の楽譜を自動解析し点訳する研究を取り上げたいとのご連絡をいただきました。その折、三味線の楽譜にも取り組んでいただきたいとお願いしたのですが、三味線や箏の点字楽譜を必要とする方がいつでも普通のこととして、手にすることができたらどんなによいでしょう。そんな日が一日も早く来ることを、願っています。

次回もお楽しみに・・・。
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