点訳アラカルト


第22回
ルイ・ブライユの生家「点字博物館」を訪ねて(後編)
2003.5.27


点字博物館


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午後2時ごろ目指す点字博物館に到着すると、お髭を生やした温厚そうな館長さんがにこやかに出迎えて下さいました。

館長さんは鍵をあけてケースから展示物を丁寧に出し、やさしく説明して下さいましたがさっぱりわかりません。それもそのはず、館長さんの話す言葉は当然フランス語でした。同行して下さったタクシーの運転手さんが英語の出来る方で通訳してくださるのですが、余計わかりません。

わからないながらなんとなく説明に頷いていると、そこには盲人用の器具が初期のころから次第に発展していく過程が順に展示されていて、特に貴重な器具の前では、館長さんが掌の上に乗せて写真を撮らせて下さいました。

そんな中、日本のライトブレラーを見つけて、思わず「ジャパン!」と声を出すと、彼もニコニコして頷いてくれました。そして、書籍類の中に日本点字委員会が出している「点字表記法」を発見したときも「ジャパン!」と叫んでしまいました。

言葉こそよく通じませんでしたが、館長さんとは点字に関わりを持つ者同士、お互いの気持ちは痛いほど通じ合っていました。

多くの貴重な展示品の中には、ラフィグラフという普通の手書きのものを点字に連続して表現することを可能にした器具や、ブライユがこの方法で家族に書いた手紙も残っていました。

館長さんはブライユの家族のお話も沢山して下さいましたが、ブライユの彫刻像や、娘達の肖像画、そして妻モニカ・バローンにまつわる品もありました。

また、ブライユの父は数エーカーのぶどう園を所有していたそうで、地下の倉にはぶどうを栽培して収穫し、ぶどう酒を製造する過程のいろいろな古い樽や道具類も展示されていました。

世界的な遺産ともいえるルイ・ブライユの生家・・・点字博物館は私に多くの感動と豊かさを味合わせてくれました。皆さんも機会がありましたら是非一度、訪れることをおすすめしたいと思います。
トニカ会員 桑山 道子

ライン

◆インタビュー
インタビュアー 点訳アラカルトに2回に亘って点字博物館を訪れたときの旅行記を掲載させていただきましたが、もう少しお聞かせ下さい。まず、この点字博物館を知ったきっかけはどんなことでしたか?
桑山 ルイ・ブライユについては点字の考案者としてどんな方だったのか、以前から興味がありました。数年前、視覚障害者の団体旅行で、点字博物館を訪れる事が予定に入っていたのに、工事中で入館できず残念だった・・・ということを聞きその存在を知りました。機会があったら是非行ってみたいという夢を持ちました。
インタビュアー お友達と別行動されて一人で行かれた訳ですけれど、不安はありませんでしたか?
桑山 実は、言葉のわからない日本人が突然訪ねて行っても体よく追い払われるのではないかと思い、千葉点字図書館の館長さんにそのことをお話ししましたら早速、点字博物館宛にお手紙を出してくださったので、何とかなるだろう・・・という感じでした。 
インタビュアー 実際に点字博物館に行かれて、具体的にはどのような印象を持たれましたか?
桑山 何といっても、点字に関する資料が大切に保管されているという印象でした。そして、それらはとてもよく整理されていて、誰が見ても流れがよくわかることに感心しました。
それから・・・お髭の館長さんが親切に、説明してくださったことも強く印象に残っています。
インタビュアー 館長さんは、どんな感じの方でしたか?
桑山 とても温厚な感じで、でもどことなく学者肌でもいらっしゃいました。そして、館長さんから受ける印象で、ブライユがよい家族に恵まれていたと想像しました。
インタビュアー 今回の旅行記でとても素敵な体験をされたことがよくわかりましたが、桑山さんは日本語の点訳を始められてどれ位になるのですか?また、楽譜の点訳はいつからですか?
桑山 昭和47年からですからもう30年余りになります。楽譜はトニカの最初の講習会からですので、十数年になりますね。
インタビュアー こんなに長く点訳をされていていろいろご苦労もあったと思いますが、今まで点訳したもので印象深いものはありますか?
桑山 これまでに点訳したものが何万ページになるかわかりませんが、どれも一生懸命心を込めて点訳させていただきました。
10年位前までは手打ちでしたので、パソコン点訳とは違った大変さもありましたが、集中して図や表、そして絵のあるものなどを好んでやりました。
インタビュアー 1日、あるいは1週間の点訳に費やす時間は、どれくらいですか?
桑山 余暇はほとんど点訳に関することをしていて、実際に点訳は毎日していますが時間はその日によってまちまちですね。ただ点訳は点字に訳すだけではないことは、貴方も点訳者の一人としてご存知でしょうけど、下調べが必要なこともありますし、点訳後は打出し、製本、そして発送と次々作業がありますから・・・。
インタビュアー 最後に点訳者として一言何か、お願いします。
桑山 そうですね・・・最近は点字を読めない視覚障害者が多くなっていると聞きます。つまり病気や事故などで失明する方が増えているのです。医学の発達によっても、先天性の視覚障害者は少なくなったんですって・・・。
今では点訳者は星の数ほどというか、点字を読める障害者より多いとも聞いていますよ。点字は子供のころから触読に慣れないと、なかなか読むのは難しいです。これからは、中途失明者に対するケアーも考える必要がありますね。
インタビュアー そういうこともあるのですね。今はパソコンで普通の文字から点字に変換することも、その逆も出来ますし、声に出して読み上げてくれたり・・・便利になったんだと単純に思っていましたが、パソコンの操作に慣れるまでにはある程度の時間が必要ですし・・・。
桑山 言葉だけならいろいろ便利な物を利用して完璧ではなくても、何とかできるかもしれません。でも、楽譜はそうは行きませんよ。何しろ楽譜には音符に記号、そして言葉・・・しかも日本語だけではありません。楽譜の点訳は本当に難しいです。
インタビュアー ベテランの桑山さんにそう言われると、説得力がありますね。貴重なお話をいろいろ聞かせていただいて、ありがとうございました。
点字博物館情報
次回もお楽しみに・・・

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