トニカ通信

トニカ通信ご案内
第 2 号 1999年9月
◎ユーザーご紹介 代表 松永朋子
◆「トニカ」の点字楽譜を利用されている皆さんから
メッセージをいただきました
◇私にとっての点字楽譜 菊地  崇さん
◇点字楽譜を利用して 坂巻 明子さん
◇楽譜の理解 岩田 耕作さん
◇仙台ガブリエリ・ブラスについて 戸田 信一さん
◎編集後記

●トニカ通信 創刊号 ●トニカ通信 第3号
●トニカ通信 第4号 ●トニカ通信 第5号
●トニカ通信 第6号 ●トニカ通信 第7号
●トニカ通信 第8号

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◎ユーザーご紹介 代表 松永朋子
ページトップ 今年も賛助会員の皆様へ「トニカ」通信をお届けする季節となった。今回は記事を書いて頂いた四人のユーザーの方を紹介したい。

ヴィオラの菊池さんは、東京芸術大学・同大学院へと進学し、アイメイトとともに通学した。大学生の頃、友人達とのコンパなどでアイメイトを店に入れてもらえず、仲間に迷惑をかけると悩んだこともあったと聞いた。今の世の中アイメイトがバリアになってしまうこともあるんだと私は切なく思った。その菊池さんもイギリス留学が決まったと聞く。新しい国でどのような音楽の出会いがあるだろうか。

ピアニストの坂巻さんは、中学生の頃からずっと演奏を聴かせて頂いている。国立音大の学生の頃から一人で暮らし、現在はフルタイムの仕事をしながらソロや伴奏の仕事で活躍している。最近は何を勉強しているのと聞いたら、ショパンの練習曲を全曲弾きたいと張り切っていた。

フランスに単身留学中の岩田さんは、高校生の頃リュートやギターを奏で、ピアノまで演奏していた物静かな青年だ。日本の音楽大学に進学せず、ベルギーにチェンバロの勉強に行くと聞いたときは誰もが驚いた。そして日本から送る荷物の中に電気釜を入れたと聞いた時、私は彼が音楽だけを学びに行くのではなくヨーロッパで生活をするのだと、その大きな決心を知ったような気がした。その後フランスへ渡り、休暇の度に帰国し私達に演奏を聴かせてくれる。

仙台ガブリエリ・ブラスの戸田さんとはずいぶん長いお付き合いである。一度もお会いしたことがないのに、電話では十年来の飲み友達のように懐かしい。数回テープで聴かせて頂いた演奏は軽快で心地よい。ぜひ一度お会いしたいと願っている。その時はきっと「お久し振りです」と言ってしまうだろう。

楽譜の点訳は決して易しくはない。どんなに簡単な音符でも間違える。何度見直しても間違える。B5の紙に32マス、22行。点字プリンターから打ち出される点字はあまりに美しく完璧に見えるが、本当は打ち出された点字を読み返すのは恐ろしい。演奏者はそのB5の紙に魂を吹き込み命を与える。演歌であろうとシンフォニーであろうと、音になった楽譜はもやは点訳という作業を超え、音楽として活き活きと輝く。
(まつなが ともこ)


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◆「トニカ」の点字楽譜を利用されている皆さんから
メッセージをいただきました。

私にとっての点字楽譜 菊地 崇さん

ページトップ 私は1988年から点字楽譜普及会「トニカ」の楽譜点訳のサービスを受けて参りました。今回この原稿を書くに当たり、視覚障害者として生きることを与えられた中で、音楽を学ぶことを選んだ者として考えてみました。

私は弦楽器を研究している者ですが、楽譜によってはすでに市販されていないものもあり、市販されていてもまだ点訳されていないものも少なくありません。

私は自分に必要な楽譜を、最大限の日数を決めてお願いしておりますが、いつも約束よりも早く点訳をしていただきますので、常に安心してお願いすることができております。

私にとって音楽は生きがいです。新しい作品に向かう時いつもワクワク、ドキドキします。私には点訳楽譜を読みながら作品に取り組んでいる時が一番充実した時間です。私が楽譜を慎重に読む習慣がついたのには、一つの思い出があります。

私の先生は大変楽譜に厳しい方でした。あるソロ曲を見ていただいたときのことです。先生は「実は今日は君にレッスンするのを楽しみにしていたんだ。この箇所は生徒たちが変化記号を見落としやすい箇所だから、生徒の譜読みには、特別の注意を持って聴いているんだよ。普段、君を見ていると、レッスンの時にはすでに暗譜をしていることが当たり前なんだけれども、考えてみると点字の楽譜を作る人は偉いね。感心するよ。」と、偶然にも私が変化記号を見落とさなかったことを取り上げて、しみじみと話されたことがありました。

私が、作曲家の一つの作品を取り上げて、私なりの解釈で、私なりの演奏表現ができた、とすると、自ずとそこには、私自身の音楽が生まれます。日々、自分の置かれた状況によって、演奏が異なるのは当然であります。

一方、演奏を聴いていただく場合を考えてみますと、私が音楽を演奏する手段として、点字楽譜が存在したという事実があり、いかなる場合であっても、聴き手の方々には、私が楽譜から解釈した私自身の根幹を成す音楽を通して、私を感じてもらうことになります。

しかし、考えてみますと、この点字楽譜の存在そのものが決して当然のことではなく、点訳者のまごころ無くしては存在しないものであります。

私自身のことから取り上げてみますと、「点字楽譜」と一言に申しましても、その記述に関しては、点字楽譜の用途に応じて様々なニーズも生じて参りますが、私の個人的な要求に対し、常に解決に苦心して下さる点訳者のことを思うと感謝の念に堪えません。
(きくち たかし)

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点字楽譜を利用して 坂巻明子さん

ページトップ 私は1995年に国立音楽大学のピアノ科を卒業しました。すぐに定職に就くことができたのですが、それは演奏活動とは異なりました。ボランティアの方達に、点訳の指導をしたり、点字図書を出版するための本を校正する仕事です。日本語、外国語、理数そして楽譜と、何でも読みこなしていかなければならず、それはそれは大変なことでした。

正直、点訳者の方が知っている知識も多かったりして、恥ずかしくなることもあるのですから。それでも私が何故今の仕事を続けていられるかといえば、「私は多くの触読校正者と比べたら、一番大変といわれている点字楽譜の知識を持っているんだ」という小さな自信を持てたことと、暖かいたくさんの点訳者に出会えて、自分自信の励みになっていることからです。

そしてなんといっても大きなことは、仕事をしていても演奏活動ができる環境にあるということです。楽譜の点訳者が多くなったことで、自分が演奏したい曲が早く手に入るようになったこと、楽譜に限らず、音楽に関する解説書や辞書も少しずつではありますが、増えてきているからです。それは、とてもありがたいことであり、また、晴眼者と譜読みを始める時間帯というものが近づいてきたということで、本当にうれしいことです。

このように、私達点字楽譜を読む側にとって、環境が良くなったのは、パソコン点訳の発達によるものでしょう。確かに、パソコンが普及したことは私達にとっても、また、点訳者にとっても良い面はたくさんありますが、反面、「あら」っと言うような疑問やミスも多くなっているような気がします。

例えば、「後で修正すればいいや」と思った箇所の校正を忘れてしまったり、何か一文字でも挿入・削除をした結果生まれてしまったパラレルの移動がうまく出来ていなかったり、点訳し終わったデータを保存する際に起きるトラブルなどです。

楽譜点訳は、日本語の点訳と違って、前の行とのかかわり、前後のページとのかかわりが多いものです。パラレルを移動させたら必ず、行頭の音列記号の確認、スタッカートや和音などの続け書きの確認をしましょう。付けなければならないところに音列がなかったり、止めなければならないところで続け書きの止めがなかったりしているかもしれません。

それから、点訳し終わって自分がフロッピーに保存をしたら、もう一度確認して、今入れたものを呼び出してみましょう。機械を信用しきってしまうと、後でショックな状態になりかねません。

次に、どんな楽譜が読みやすいかという話ですが、これは人によってさまざまだと思います。ただ、初歩の人に対してのピアノ譜は、2小節、4小節など1行に入る程度の量で繰り返し記号もあまり使わずに書かれるとよいのではないかと思います。

そして、大曲を弾くような人にとっては、点字で4、5行〜8小節分くらい一気に1パラレルに入れてしまった方がよいのではないかと思います。ちなみに、私は普段、通勤で利用するバスの中や布団の中で暗譜をすることが多く、ピアノに向かったときは「とりあえずゆっくり弾ける」という状態にもっていっています。

その場合、覚える段階において必要なことは、「音楽のイメージを作る」ということですから、1パラレルが長い方が曲を理解するのに途切れずに済むのです。右手ワンフレーズ覚えたら、そこまでの左手を覚えて…の繰り返しの積み重ねで曲を覚えます。1曲覚え終わったときは、本当に感動するものです。そしていつも点訳者に感謝し、尊敬しています。この感動があるからこそ、音楽を続けていけるのだと思います。

最後に、私達依頼者側は、最近このパソコンの発達とベテランの点訳者が増えてきたことで、依頼の仕方がかなり雑になっているようです。「急いでください」という依頼を多く持っていく傾向にあり、またせっかく点訳していただいたのにもかかわらず、お礼を言わないなど、本当に皆様に申し訳ないことをしています。

「今から急ぎをお願いしてもなんとかなるだろう」という気持ちはあまり持たないように気をつけたいと思いますし、もっと点訳者の大変さを考えて、前もって用意できる楽譜は手に入れるようにするなどの準備をしていかなければなりません。

点訳する皆さんも、「やらせていただこう」という気持ちと共に、どうしてもやりきれない場合や期限に間に合わないときなどは、遠慮なく依頼者に言ってもいいのではないでしょうか。点訳者と依頼者との情報交換によって、あたたかいものをたくさん感じとっていけるのだと思うし、高め合ってもいけると思います。

あとは、楽譜の書き方で、「これ」っという決まりのないたくさんのことをどのようにしていくかです。とりあえずは、トニカ独自のものがあって、それが統一されていればいいのだと思います。

ただ、今後は私達依頼者側も勉強を重ねて考えなくてはならない課題だと思います。たくさんの意見、質問を出し合って、点訳を向上させていきましょう。今後ともよろしくお願い致します。
(さかまき あきこ)

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楽譜の理解 岩田耕作さん

ページトップ わが国での点字楽譜の状況は、ここ十数年でめざましい進歩を遂げた。これは、トニカをはじめとする楽譜ボランティアの設立、パソコンによる点訳ソフトの開発、コンピューター機器の値下がりなどの理由が挙げられる。

20年前、私が音楽を始めた頃は、まだ点字楽譜の入手は容易ではなく、先生が弾いてくれる曲を1音ずつ暗譜するしかなかった。

近年、点字楽譜は、よりオリジナルの楽譜に忠実に、また、利用者が瞬時に曲全体がつかめるような記譜法がさまざまに試みられていることは、大変喜ばしいことである。しかし、点字の性質上、墨字楽譜利用者と同等の情報を得ることができない点も残っている。我々視覚障害者が、健常者とともに音楽をやっていく上で、この問題について今一度考えてみる必要があるのではないだろうか。

点字楽譜は、音の高さ、長さを記号によって表すため、墨字楽譜のようにメロディーラインを曲線として、直接視覚的に理解することはできない。また、数音に渡るスラーや、クレッシェンドなどは、点字楽譜では、その始まりと終わりが記されるだけである。音の横のつながりは、記憶と想像によって補うしかない。曲が1声部だけならばまだ良いが、多声部のものになると容易ではない。

現在私は、ストラスブール音楽院にてチェンバロとともに、作曲法を学んでいる。和声法や対位法の課題では4声で書くのがふつうである。点字楽譜では4声を同時に読むことは不可能なので、2声〜3声は暗譜した上で、頭の中で思い描くしかない。

実際の演奏の面においても、メロディーラインを、また、作品全体を立体的につかむことの苦手な点字楽譜利用者は少なくないのではないだろうか。私もチェンバロのレッスンを受け始めた頃には、このことについて先生方からよく指摘された。

我々視覚障害者は、楽譜を暗譜してからでないと曲を演奏することはできない。それならば、晴眼者もソロを演奏するときには、暗譜して弾くではないかという人もいるだろう。

しかし、彼らは曲を仕上げてから暗譜することができるのであって、まず最初に暗譜という作業から始めなくてはならない我々とは事情が異なる。このときに陥りやすい危険は、楽譜を覚えるということに気を取られて、音楽的に曲を分析し組み立てるという作業は後回しになってしまうことだ。

特に、鍵盤楽器のような、ある程度機械的に弾くことのできるものの場合、危険性はより大きい、これでは、曲を仕上げるのに時間がかかりすぎる上、暗譜するときに弾いていた癖が残って、いつまでも間違った解釈で演奏してしまうこともある。

点字が、指で読むものであり、6点の組み合わせによる記号で表されるものである以上、墨字楽譜のように、曲全体を一目で見ることもできないし、楽譜を見ながら演奏することもできない。

しかし、初めて新しい点字楽譜に触れるとき、1音1音を追って暗譜していくのではなく、まずは楽譜を読むことによって曲全体を理解し、また、頭の中でメロディーラインを思い描く訓練をすることによって、かなり補うことはできる。はじめは時間のかかることだが、まず作品を理解することから始めることは、暗譜の助けにもなる上、曲を仕上げる作業はずっと速くなる。

視覚障害者が、晴眼者とともに音楽を学び、ともに演奏をしていく上で、演奏技術のみだけでなく、譜読みの速さ、楽譜の理解力も、常に求められていく。点字楽譜が容易に手に入るようになった今、私たち利用者が、いかに点字楽譜を有効に使っていくかについて、考える必要があるのではないだろうか。
(いわた こうさく)

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仙台ガブリエリ・ブラスについて 戸田信一さん

ページトップ 私は宮城県の仙台で整形外科医院に勤め、マッサージをしながら仲間と一緒に作っているブラスアンサンブルでトランペットを吹いています。今回は私達のグループ「仙台ガブリエリ・ブラス」を紹介します。

仙台ガブリエリ・ブラスは昭和46年6月に宮城県立盲学校吹奏楽部部員4人によって結成されました。当時ブラスアンサンブルの楽譜は少なくて、最初に手掛けたジョバンニ・ガブリエリ作曲の4音のカンツォーナは、メンバーで一番若かった千葉政基がニューヨーク・ブラス・クインテットのレコードからコピーしたものを使いました。

翌年、この曲で県吹奏楽連盟主催のアンサンブルコンテストに出場し、金賞をもらいました。その後後輩が一人加わり5人になったところで、グループの名前を記念の曲の作曲者ジョバンニ・ガブリエリからとって、「ガブリエリ・ブラス・クインテット」と名づけました。

その後、昭和50年第1回演奏会の後メンバーが増えることを期待してクインテットを取り、頭に仙台をつけて現在の「仙台ガブリエリ・ブラス」に変えました。

期待どおり、後輩だけでなく、一般の社会人、大学生等が入団してきました。現在では、就職や転勤でメンバーの入れ替えがありましたが、トランペット4、ホルン1、トロンボーン4、ユーフォニウム1、チューバ2、計12名に増えました。

楽譜も徐々に増え、今ガブリエリ・ブラスが持っている楽譜はメンバーのアレンジしたものを含め800冊になります。それをチューバの千葉政基やトランペットの中村哲、そして楽譜係の越後雄治が点訳してきましたが、仕事や練習の合間を利用してなので、大変なことでした。

点字楽譜普及会「トニカ」を知ったのは、9年前だったでしょうか。ちょうど越後雄治の転職やコンサートの回数が増え、点訳ができなくて困っていたところでした。その時お願いした「カルメン・ファンタジー」をはじめ、点訳していただいた数はもう100曲近くになりました。

5月9日の21回定期演奏では、その中からガブリエリの「12音のソナタ」、ビゼーの「カルメン組曲」、マンシーニの「酒とバラの日々」、そしてガーデの「ジェラシー」等を演奏しました。

定期演奏会は曲数が多く、メンバーだけでは点訳しきれなかったので大変助かりました。演奏会の成功の影には「トニカ」の皆さんの協力があったからこそと皆感謝申し上げております。本当にありがとうございました。

仙台ガブリエリ・ブラスのコンサートは、学校やコミュニティー・センターでの音楽鑑賞会、病院や施設を訪問しての演奏イベントへの参加等、年間20回ほどです。レパートリーは、ルネッサンスやバロック、アニメや映画音楽、演歌や民謡と幅広くその中から時や場所、聴いてくださるお客様の年齢に合わせ、曲を選んでプログラムを組んでいます。

以上、誕生からここまでの私達のグループをざっと紹介しました。

仙台ガブリエリブラスは結成28年目を迎えました。たくさんの方に励まされ、支えられながらこれまでやってまいりました。これからも地域に根差した皆さんに愛される音楽グループにしていくつもりでおります。どうぞ、よろしくお願い申し上げます。
(とだ しんいち)

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◎編集後記

「トニカ通信」第2号です。今回もいつも「トニカ」に点訳を依頼されているユーザー4人の方に点字楽譜とのかかわりについて書いていただきました。
今後とも「トニカ」をよろしくお願いします。  (広報)

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