トニカ通信

トニカ通信ご案内
第 5号 2002年9月
◎点訳は二人三脚
点字楽譜普及会「トニカ」代表  松永 朋子
◎点字楽譜と付き合って50年
楽譜点訳の会「おたまじゃくし」 顧問  松田 忠明 さん
トニカの想い出
元「トニカ」会員  目加田 和子 さん
新米点訳者の記
「トニカ」会員  新倉 隆 さん
◎広報より
◎編集後記

●トニカ通信 創刊号 ●トニカ通信 第2号
●トニカ通信 第3号 ●トニカ通信 第4号
●トニカ通信 第6号 ●トニカ通信 第7号
●トニカ通信 第8号

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点訳は二人三脚 代表 松永朋子
ページトップ 点訳という作業には、当然校正も含まれる。自分の点訳したものは先ず自己校正をし、それから他の方に校正をして頂く。自分では見つけられなかったミスや、思いがけない知恵を授けていただく。より客観的に見て頂くことによって、その楽譜の完成度は高くなる。もちろん他のメンバーが点訳した楽譜を校正する機会も多いが、これが意外に難しい。

自分自身が点訳した楽譜は、あくまでも「私」という主観を通して点訳される。最初の音符から最後の終止線まで、私自身の印象と知恵で点訳する。私はこの楽譜の読み手のことを考える。また、この点字楽譜がどのように使われるのか、一生懸命想像しながら点訳する。

点字楽譜には様々な応用と工夫がある。例えば音符から音符へかかるスラーでさえ数種類あるし、また、和音記号やスタッカートなど、同じ記号が四つ以上連なる場合は、記号を簡略化するために省略形のかたちを取ることもできる。

極め付きは繰り返しの記号だろうか。前の拍と同じ・・・ 前の小節と同じ・・・ 前の4小節を繰り返す・・・ など。これらは点字楽譜を覚え易くするために、簡略化するために使われる。点字楽譜ならではの表記法だろう。それらの応用と工夫も、点訳者が選択する。

他の人が点訳した楽譜を校正する場合、まず、点訳者がどのように楽譜を読み、どのような計画で点訳を進めたかを感じなければならない。たとえ第1小節目から自分の印象と違っていたとしても、まず、点訳者の主観を第一に考え、校正を進める。

途中で我慢ならなくなり、「私ならこうしたい。」「自分ならこう点訳する。」と、あまりに自分自身の意見を押し付けてしまうと、その点字楽譜はギクシャクしたものになってしまう。点訳者と校正者が競い合わず、互いに個性を尊重し、自立した観点を持ちながら、二人三脚の徒競走のようにゴールを目指す。あるいは完成を目指す。私が「トニカ」から学んだ一番大きなことだ。
(まつなが ともこ)
点訳アラカルト第19回で、スラーについて解説しています。


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◇点字楽譜と付き合って50年 楽譜点訳の会「おたまじゃくし」
顧問 松田 忠明 さん

ページトップ 高等部2年の時に転任してこられた音楽の先生に感化され、僕の進路は変わった。そうして1952年に東京教育大附属盲学校音楽科に進むことになった。先輩から楽譜を借りて、1日に5、60頁も写し書きをした時期もある。後にわかったことだが、その楽譜にはかなり間違いがあったようだ。でも少々の間違いはあっても、僕にとってそれは何ものに変えがたい宝物だった。

しかし、つい最近、後生大事に持っていたその宝物の大半を廃棄してしまった。それは、書棚の整理ということもあったが、点字楽譜の研究と有能な楽譜点訳者の育成に取り組んでおられる「トニカ」や、松山市に誕生した「おたまじゃくし」が、間違いのない楽譜を必要に応じて点訳して下さるようになったからだ。

松山盲学校で吹奏楽部の顧問を引き受けたものの、吹奏楽の点字楽譜は皆無だし、楽器店へ行ってみても、20名足らずの小編成のバンドに適した楽譜がどれなのか、五線譜の読めない僕には探しようがない。

そこで、中学校や高等学校の吹奏楽部の演奏を聴いてまわり、その中から選曲していくことを始めた。こうして探し当てた楽譜を、妻にはもとより、同僚、果ては生徒にまで読んでもらって点訳した。各パート譜を少し点訳しては、それを次の日に練習する。また次の日にその続きを点訳するといった繰り返しが20年余りも続いたであろうか。

生徒数が少なくなり始めた1991年に吹奏楽部ではベートーベンの「歓喜の歌」をジャズ風にアレンジした「シンフォニー 9」を演奏することになった。その楽譜の点訳を引き受けて下さったのが「トニカ」だった。

吹奏楽部はその演奏を最後に創部40年の歴史を閉じた。しかし、生徒達の音楽活動は続いた。僕はかねてよりこの日の来ることを予想して揃えておいた、メックの合奏用のリコーダーを使ってアンサンブルに取り組んだのである。もちろんリコーダーの楽譜を買い揃え、電子ハープシコードも購入しておくことを忘れはしなかった。

その楽譜を次々と点訳して下さったのも「トニカ」だったことは言うまでもない。もし、僕が「トニカ」との素晴らしい出会いに恵まれていなかったら、僕の最後の仕事として取り組んだリコーダーの三重奏、四重奏、五重奏などを中心とした生徒達の音楽活動は、実現しなかったことであろう。

点字楽譜のことで、時には1時間に及ぶ長電話をして、松永さんと話し合った当時がつい昨日のことのように懐かしく思い出される。点訳して頂いたリコーダーの楽譜は、今も我が家の楽譜棚に大切に保存されている。

退職後、僕は視覚障害者のために活動するボランティアグループ「キューピット」に参加して、点字による生活情報誌の発行、水泳教室やウォーキングの実施、健常者と障害者によるコンサートの開催、パソコン点訳者の養成などに取り組んできた。もちろん、我が家には点字プリンターも備えてある。校正する時には、ブレイルノートが大活躍だ。

1999年には、楽譜点訳の講習会を受講した人達の発案で、楽譜点訳の会「おたまじゃくし」が誕生した。賛美歌の点訳によって、音符、休符、音列記号について習得した。さらに、フルートやアルトサックスのパート譜の点訳によってそれを深めていった。

続いて取り組んだのがシャンソンで、日本語とフランス語の歌詞の書き方、段構成、ギターコードの書き方を学びながら、28曲のシャンソンを書き上げた。

それに続いてカンツォーネの依頼があり、ピアノ伴奏譜にも挑戦している。とにかく皆さんの旺盛なチャレンジ精神には頭の下がる思いだ。ある人は「点字楽譜って奥が深いものですね。それだけにやり甲斐があり、実に面白いです。」という。歌劇「カルメン」より数曲の点訳を依頼された方は、「楽譜を見ると、ビゼーの思いがひしひしと伝わってくるよ。」と喜んで下さった。

今年は6人の新しいメンバーを迎えた。組織化されたグループではないが、お互いに心を通い合わせて頑張っている。素敵な点訳者として育ってくれることに期待を寄せているところだ。

こうして楽譜点訳に携わるようになった僕は、「トニカ」が点字楽譜を利用している人達に示される深い思いや、楽譜点訳に注いでおられる熱意と努力が、いかに素晴らしく尊いものであるかを一層強く感じるようになった。

点字楽譜は読みやすく、覚えやすく、探しやすく、わかりやすいものでなければならない。段の区切り方は五線譜ごとなのか、フレーズを中心にしたものなのか。歌曲などの段構成に、ギターコードやピアノまで含めるのか。小節番号にはどんな役割を持たせるのか。数字による繰り返しはどのように用いれば効果的か。イタリア語、フランス語などのアクセント文字は英語のアクセント記号をつけただけでよいのか。1頁22行片面書きより、行間の広い1頁18行両面書きの方が読みやすいのではないか。こんなことはごく初歩的な問題で、点字楽譜の表記法にはもっともっと改善し、全国的に統一しなければならない多くの課題がある。

先日ナイーブネットからダウンロードした楽譜を見ていたら、部分け記号を用いる際の音列記号の付け方にたくさんの誤りがあった。また、その楽譜は音符法で書かれてあった。僕は、ピアノ楽譜は音程法で書くべきだと思っている。

今日点字表記法の改善と普及については、日本点字委員会を中心に、各方面で熱心な取り組みが行われている。しかし、点字楽譜の表記法については、文部省が「点字楽譜の手引き」を出版して以来、その改善と統一の動きはまったく見られない。

全国各地に楽譜点訳のグループが数多く誕生し、盛んに楽譜点訳が行われるようになってきた今、日本点字委員会など、然るべきところでこの問題について検討し、点字楽譜表記法の改善と統一を図ることが急務であろう。そして、点訳者だけでなく、点字使用者にもこの素晴らしい点字楽譜を普及していきたいものだ。
(まつだ ただあき)


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◇トニカの想い出 元「トニカ」会員 目加田 和子 さん

ページトップ 点字を始めて20年、その内の10年は点字楽譜普及会「トニカ」の会員の一人として活動させて頂きました。そしてこの4月に活動会員から賛助会員へ。止むを得ない事情でのこととはいえ、淋しいですね。いつも頭の中に点字のことがあった日々が今は夢の中の出来事のようです。「点字楽譜の作成」が日常生活にしっかり根付いていた10年間でした。

今振り返ってみると、「何と充実していた日々だったのか」と思います。楽譜の作成、校正に追われて悲鳴を上げた日もあったのに。「トニカ」では点字楽譜のイロハから教えて頂きました。

あのパソコン等の機器に囲まれた事務所での活動、会員さんとの交流等、転勤族である私の東京での大事な居場所の一つでした。また、間違いだらけの楽譜を丁寧に校正して頂きました。単なる「方法」を覚えただけでなく、いろいろな形で得難い経験をさせて頂いたと感謝しています。

依頼者の方との電話での交流もよい思い出の一つです。電話のやり取りが重なり、連絡事項だけでなく、ちょっとしたお喋りを楽しんだりもしました。他愛ないお喋りの中からその方の明るさ、前向きな姿勢を、声を通して感じることができました。そして、点字の楽譜が音楽をなさる“視覚障害者”にとっていわば“白い杖”であることも。それ以来、楽譜を作成する時にも“依頼者”を身近に感じられました。

点字の楽譜の一頁、一頁には点訳者、校正者の膨大な時間と努力とが詰まっています。これらはこれからも「トニカ」の会員の中で長く引き継がれていかれるものでしょう。

短い期間であっても「トニカ」の会員であったことは私の誇りです。「トニカ」の皆さん、そして依頼者の皆さん、有難うございました。私も点字の作成はできなくなりましたが、これからは“賛助会員”の一人として「トニカ」のためにささやかな力になれれば幸いです。
(めかだ かずこ)

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◇新米点訳者の記 「トニカ」会員 新倉 隆さん

ページトップ 私が「トニカ」に入れて頂いて早くも1年余が経ちました。先輩諸氏の足手まといになりつつ、何とか点訳者としての一歩を踏み出し(たつもりで)、点訳ライフをエンジョイしています。

私が点訳に関心を持ったのには、主として3つの動機があります。
(1)親しい音楽仲間の家族の方が、不慮の事故で失明されたこと。
(2)長唄を習っているカルチュアセンターのすぐ近くの教室で点訳講座をやっていたこと。
(3)私より2年ほど早く定年になった先輩が「仕事を離れたら、趣味だけでなく何かボランテイア的なことをしないといけないよ」と常々忠告してくれていたこと。

そこで、定年を機に、カルチュアセンターで日本語点訳、引続き楽譜点訳の講座に行き、一応コースは終了した――しかし、それだけでは何の役にも立たぬ、どこか、点訳グループを、と探した結果、「トニカ」に入れて頂いた、という次第です。

さて、新米点訳者の感想を、思いつくままに記させて頂きますと、

1.カルチュアセンターでの講習は、それなりに有益だったとは思うものの、もっと早く「トニカ」に入れて頂いていたら、とつくづく思うこの頃です。コンピューター点訳を覚えると、あの手打ちの点字盤で何百枚もの紙に穴をあけていた時間が、いささか空しく想起されて来るからです。カルチュアセンターで習い始めの頃、講師に、何故コンピューター点訳を教えないのか、と尋ねたところ、「手打ちが基本だから。それに、コンピューターを教えると特定のメーカーへの肩入れになって、具合が悪い」という答でした。(特定のメーカーでもいいじゃないか、第一、蕎麦やスパゲッティじゃあるまいし、点訳で、手打ちが機械に優るとはとても思えないし、と、その時は腹を立てたものですが。)

2.カルチュアセンターでは、日本語コースを取ってからでないと、楽譜コースを取れない仕組みになっていて、これも、少なくとも平行して習えていたら、と思います。

3.「トニカ」の仕事をさせて頂いて思うことの一つは、ユーザーである障害者の方の意見、希望を直接伺う機会があるといいな、ということです。勿論、トニカ通信に、毎号ユーザーの方の御意見が載っていて、大変参考になりますが、やはり、ユーザーの方と直接お話しし、質疑応答のできるチャンスが多いと有益だろうと思うからです。

4.雑談めいた話で恐縮ですが、近頃、6点点字というのは、よく出来ていると、つくづく感心しています。4点15通りでは情報量が少なすぎるし、といって8点255通りでは、覚えるのに大変だし、6点63通りというのは、過不足のない組み合わせだと思うのです。(ついでに付け加えますと、分別記号が「シゴキ二ムキ二なるな」だというのは、とりわけ、よく出来ている――――。)いささか脱線してしまいましたが、今後とも、先輩諸氏の暖かい御指導、御鞭撻のもとに、早く一人前の楽譜点訳者になれるよう、努力して参りたいと思っています。
(にいくら たかし)

点訳アラカルト第17回 なぞとき もご覧下さい。

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広報より ♪ トニカ便り ♪
(最新のトニカ活動内容をお知らせします。)
 
◎トニカの点字楽譜が韓国デビュー!
ピアニストを目指すソウルの音楽学生さんより46タイトルもの楽譜の注文がありました。

◎トニカに新しいパソコン導入!
太陽生命ひまわり基金より助成金30万円いただき、念願のウインドウズ版を購入しました。

◎原本価格テキスト
今年度は、皆様からのご賛同を活かすべく、また、トニカ通信5号発行を記念して5タイトルと致しました。今までの原本価格提供楽譜とあわせてご紹介致します。
第2期 ソルフェージュ「基礎からの実習、旋律聴音」
第3期 最新音楽用語辞典
第4期 ツェルニー40番練習曲 解説付
第5期 ソナチネアルバム T
ショパン 練習曲 作品10、作品25
ショパン ワルツ集
ドイツ歌曲集
MFLC講師が選んだ「40フルート小品集」


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◎編集後記

ページトップ 本年度は5タイトルを原本価格で提供できるようになりました。少しでもユーザーの方々のニーズに応えられればいいなと思っております。

皆様のご意見、ご感想を是非お聞かせ下さい。E-mailやファックス、お便りでお願い致します。

トニカ通信ご案内 点訳アラカルト第17回