トニカ通信

トニカ通信ご案内
第 8号 2006年4月
◎モーツァルト イヤーに思う
点字楽譜普及会「トニカ」代表  松永 朋子
◇海外で音楽を学ぶ視覚障害の娘を通して親として経験したこと
遠藤 恵子さん
◇ドイツから
大林 章子さん
◎広報より
第15回音楽教育振興賞を受賞
◎編集後記

●トニカ通信 創刊号 ●トニカ通信 第2号
●トニカ通信 第3号 ●トニカ通信 第4号
●トニカ通信 第5号 ●トニカ通信 第6号
●トニカ通信 第7号

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モーツァルト イヤーに思う 代表 松永朋子
ページトップ 今年はモーツァルト生誕250年の記念すべき年である。書店や楽器店ではコーナーを設け、モーツァルトの作品の楽譜やCDをたくさん紹介している。

私が楽譜の点訳を始めた頃、書店の棚に並ぶ楽譜を眺めながらいつも不思議に思った。どうしてここに点字楽譜も一緒に並ばないのだろう。モーツァルトの作品はどれぐらい点訳されているのだろうか。点字楽譜を使用する方達は、常にボランティアに点訳を頼まなければ楽譜を手にすることは出来ないのだろうか。せめて国内の点字楽譜のカタログだけでも楽譜の売り場で紹介する事は出来ないだろうか。「トニカ」はそんな思いから出発した。あれから20年、パソコン点訳でその方向性は確立された。

そして点字楽譜連絡会、通称「点譜連」の発足は、「トニカ」をはじめ国内の楽譜点訳者が点訳し、データーとして大切に保管している点字楽譜を、広く国内外に広めることを可能にした。近い将来にはその点字楽譜はインターネットでも紹介され、世界中で自由にダウンロードできるようになるだろう。「点譜連」の充実こそは、視力しょうがい者の音楽を学ぶ環境を無限に広げ、職業の道をも広げていくと信じる。

「点譜連」は、点字楽譜を必要とする視力しょうがい者や楽譜の点訳者のために、「なにかお手伝いをしたい」という皇后陛下のお心とともに、御著書の印税を賜った事から発足に至ったと聞く。ヴァイオリニストの和波孝禧氏を代表に運営委員の皆様が着々と準備をされている。これより50年の後、モーツァルト生誕300年の記念すべき年には、私たちの点訳したモーツァルトの楽譜は「点譜連」によって世界中に紹介され、活き活きと演奏されるだろう。

音楽は日に日に新しく生まれ、楽譜も次々に出版される。私たちの点訳者としての役割はまだ終わらない。

(まつなが ともこ)
 
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海外で音楽を学ぶ視覚障害の娘を通して親として経験したこと
遠藤 恵子さん

ページトップ アメリカ生まれの娘は4歳の時に日本でピアノを始めました。住んだ国は日本(東京)、タイ(バンコク)、シンガポール、アメリカ(ニュージャージ州とヴァージニア州)です。現在単身でRoyal College of Music, London(英王立音楽大学)ピアノ科の1年生に在学中です。

<ピアノの先生
娘は各国々でトータル6人の先生にピアノを習い、現在ロンドンで新しい先生に習っています。一口にピアノの先生といっても、それぞれに特徴があり、こんなに違うものなのかと部外者の私は驚かされました。技術を主にする先生、表現を主にする先生、音を主にする先生、等々。これは、海外だからというのではなく、日本国内でも同じような感想をもつと思います。そして、どの先生も視覚障害者を教えた経験のない方々でした。初めて眼の悪い娘を連れて行くと、どの先生も経験がないので躊躇されます。これは生徒の眼が悪いからということより、「眼の悪い生徒を自分が教えることができるのか?」という自分の責任を考えてしまわれるからのようです。それでも、実際に教えてみると、ご自身も勉強になったという感想を頂きました。また、娘にとっても、これらの先生の試行錯誤が娘なりの練習方法を身に着ける助けになったのです。

<点字楽譜>
・アメリカ
点字楽譜は国会図書館(National Library of Congress)で借りる方法がとられています。図書館で本を借りるのと同様、期間が来れば返さなくてはなりません。娘が後にも使えるように自分の点字楽譜を希望したので、点字楽譜を製作しているところを探しましたが、ボランティアのような形式で点字楽譜を製作している機関を見つけることができませんでした。結局、点字楽譜を製作してくれるのは業者になり、その結果、かなり高額になってしまうので、トニカさんの点字楽譜の方がはるかに経済的です。日本からは海外でも送料が無料という利点もあります。アメリカでは国外は船便を除いて、点字でも普通の手紙と同じ郵便料金がかかります。
・イギリス
アメリカと同様に図書館で借りることも、個人用に製作を依頼することもできます。依頼する場合は大学を通すので費用はかかりませんが、時間がかなり掛かります。図書館のものは、旧式の点訳です。
生活面で知った大きな違いは白杖です。アメリカや日本の様に下部が赤くなく、杖全体が白色で、白杖全体が反射材でできています。白杖の何箇所かに赤い横縞の入ったものは盲聾用だそうです。娘がアメリカから持っていった白杖の下部が赤いので、視覚障害に関係のある人に娘は聾でもあるのかと一瞬思われたそうです。
電車とバスはゾーンに分かれているのですが、ゾーン1と2区間では料金は無料です。パスが必要で、手続きに時間がかかるようですが、外国人でも発行してもらえます。ロンドンの生活を始めて間もないので、詳しいことは分からないのですが、娘が一人で地下鉄(チューブ)を利用した時、駅で行き先を告げると、駅員さんがホームまで連れて行ってくれました。電車の一番前に乗せてくれ、運転手さんに行き先を伝えてくれました。目的の駅で電車を降りると、乗った駅から連絡が行くのか、運転手さんが連絡するのか、到着駅の駅員さんが迎えてくれ、必要な出口まで案内してくれました。因みに、ガイドの人の料金は割引にならず、規定の料金です。

<コンサート&コンクール>
私達の住んでいるワシントンDCの郊外になる、ヴァージニア州北部地域には、いろいろなコンサートやコンクールが大きなものから小さなものまで多々あります。ピアノの先生が推薦してくださると、それらに参加することができます。娘はそういう機会に恵まれ、人前で弾くことの場数を踏み、コンクール入賞などを果たすことができました。しかしながら、娘が参加したコンサートやコンクールの場、そして大学受験のオーディション会場でも娘以外の視覚障害者を見たことはありません。クラシックを勉強している視覚障害者がいないわけではないとは思いますが、スティーヴィーワンダーやレイチャールズのようにジャズの世界に活躍する視覚障害者がアメリカでは多いのかもしれないと思ったりしています。

<大学受験>
アメリカといえども、障害者には冷たい環境も歴然とあります。大学受験に際して、高校の視覚障害専門の先生に「視覚障害者であることを隠して受験し、合格が決まってから知らせれば良い」とアドヴァイスされました。受け入れてから受け入れを拒絶することは法律違反になるからです。しかしながら、音楽の場合、オーディションがあるので、視覚障害であることを隠すことはできません。また、ある音楽大学では、視覚障害者の受け入れ方法が分からないので、視覚障害の受験生を書類選考で落としたということを間接的に耳にしました。
アメリカの音楽大学への受験方法は、視覚障害者も晴眼者も変わりはありません。夏休み等の時間のある時に、志望大学を事前に視察することができ、自分の目で確かめて志望校を決めることができます。オーディションの日に行われるツアーに参加することもでき、既に在学している学生が学内やキャンパスを案内してくれます。
必要なもの:願書、推薦状、成績証明、SAT/ACT(英語と数学の学力を調べる試験)の成績、エッセー、レパートリーを含む今までの音楽活動、音楽以外の学校やコミュニティー活動、オーディション曲(4種類。ソナタは全楽章)、(書類専攻上の録音テープ或いはCD、大学により要求されることもある)
エッセーは各大学によりテーマが異なり、音楽とは直接関係のないものもあります。エッセーの内容で自分がどんな人間であるかを表現することになるので重要です。指定の締切日(10月〜翌年1月)までに郵送或いはネットで送ります。書類専攻後、オーディションを翌年2〜3月に受けることになります。遠方の大学で交通費等の関係などで直接大学に行けない場合は、何箇所かある国内のオーディション会場を選ぶことも、オーディション曲を録音したものを送ることもできます。結果は4月頃届き、9月入学となります。高校4年生[ヴァージニア州の義務教育:kindergarten(幼稚部1年)、 elementary(小学部6年)、middle school(中学部2年)、 high school(高等部4年)]は、夏休み明けから受験準備に追われます。学校の授業の他にエッセーに時間が取られるからです。SATは事前に何回か受けて、一番良い成績を提出することができます。余談ですが、4月に大学から良い結果をもらっても6月まで授業があり、最終成績が必要なので遊んではいられません。合格内定通知をもらって遊んでしまった為に成績が悪くなり、入学を取り消された実例もあります。イギリスの音楽大学も上記とほとんど同様の内容でした。エッセーとしては要求されませんでしたが、願書の中に同様の質問事項がありました。オーディションはニューヨークやボストンなどでも受けることができます。日本の場合アジア地区の会場があります。

<コンピューター>
アメリカではコンピューターが進んでいるので、視覚障害者もコンピューターで学校の宿題をこなすことが多くなります。娘も調べ物や提出物でコンピューターのお世話になり、時には宿題を先生に直接メールで提出ということもありました。墨字のテキストをスキャナーでコンピューターに取り込み、点字に変換したり、音声で読んだりすることもできるようになりました。大学受験のエッセーもコンピューターのお世話になります。大学によっては願書をネットのみで受付けるというところもあります。
2005年の夏には音楽を専攻する16歳以上の学生を対象にしたサマーキャンプに参加しました。定員が6名と少ないので、参加に当たってはエッセーの提出があり、書類専攻があります。娘の場合、住んでいる地域の視覚障害機関がスポンサーになってくださったので、参加費用($1,100)は無料になりました。場所はフィラデルフィアにある盲学校でした。ワシントンDCからフィラデルフィアまで電車(アムトラック)で行かせましたが、駅で電車に乗り込むまで赤帽さんが連れて行ってくれ、到着駅にはボランティアさんが迎えて学校まで連れて行ってくれました。電車も飛行機も予め視覚障害者なのでアシストが必要な旨頼んでおくと、係りの人が手を貸してくれます。間違いが起こらないように到着地での出迎えの人の氏名と電話番号を伝えておく必要があります。そのキャンプで、コンピューターを使った点字楽譜の技術を学ぶことができました。

<VSA art>
VSA artとは障害のある人の芸術全般を支援する協会です。音楽の部門では25歳以下のアメリカ国内と海外のヤングミュージシャンで障害のある人に応募資格があり、国内外各2名入賞することができます。年一回テープとエッセーによる審査があります。入賞すると一人$5,000の賞金とワシントンDCのケネディーセンターで授賞式と共に演奏することができます。
詳しくはhttp://www.vsarts.org/x1485.xmlで見ることができます。今までは個人の応募でしたが、今年からは室内楽やロックバンドなども受け入れるようになったようです。2005年度の入賞者の一人に娘が選ばれ、もう一人の入賞者と共にケネディーセンターで演奏し、地元放送局がニュースに取り上げ、学校でインタビューがあるという面白い経験をしました。

<最後に>
いろいろな経験をすると音楽表現も豊かになります。海外で音楽を勉強することは、とてもチャレンジングで苦労も多いのですが、その経験は音楽にも生かされると思います。チャンスがあったら是非海外で音楽に触れてみて下さい。ヨーロッパの石畳を歩くと作曲家の時代の息吹を感じ、クラシックを初め、お国柄の出たストリートライブを楽しめます。アメリカの駅や路地ではサックスやドラムが鳴り響きます。きっと眠っていて気づかなかった感性が目覚めることでしょう。

(えんどう けいこ)

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ドイツから
大林 章子さん

ページトップ ドイツに来て早いもので3年が過ぎてしまった。今私はボン大学で音楽学を学んでいるが、今年の3月で丸3年大学に通い、今年の夏あたりからようやく卒業論文に取りかかることができそうである。こちらの大学はペースも人もそれぞれなので、何年で卒業しなければいけないとかいうきまりは全くないし、先生に「論文はどうなったの?」などと言われることもない。だからこそ自分の意志で勉強するしかないのだ。今回はドイツでの生活のほんの一部を紹介できればと思う。

まず、私が感じるドイツ人の障害者に対しての対応だが、これは一言で言うのは難しい。まず最初に言わなければいけないのは、歩行に際しては、ドイツはとても冷たいと言うしかない。点字ブロックは見たことが無いし、券売機にももちろん点字はない。最近ボンでもようやく地下鉄のアナウンスが良くなったものの、私が来たばかりの頃は、アナウンスがあってもはっきりしなかったり、テープが狂ったのか、一駅アナウンスが前後することもふつうであった。ただ私が街を一人で歩いていると、意外に気軽に声をかけてくれるのは嬉しい。それから、これは障害者に対してということではないが、ドイツ人ははっきりしているのでものを頼みやすい。逆に頼まないと何もやってくれないとも言えるが、私がこれこれができないので、手伝って欲しい、と頼み、相手も時間があれば、とても喜んでやってくれる。ただし出来ない時はっきり断られてもそれを悪く取ってはいけない。逆に慣れてしまえばそのほうがさっぱりして良いのだ。

せっかくなので、私の趣味でやっているコーラスを通して、もう少しドイツ人の様子を紹介してみよう。私も大学時代試験や何度かの本番を経験してきたが、なぜこんなに緊張するのかと自分が情けなくなってしまう。ドイツ人は本番全く緊張しないのだ。私が入っているアマチュアコーラスは、年に1度教会でコンサートを開き、その他にミサで歌ったりするのだが、だいたいいつも本番のできが一番良いのだ。まあこれもシロートの範囲だが、練習のときこれはどうなるのだろうと思っても、なぜか本番はそれなりにまとまってしまうのが何とも不思議だ。歌うことのみならず、彼らは人前で何かをやること、つまり自己主張に慣れている民族なのだ。大学のゼミでも、ほとんどの場合発表(つまりプレゼンとでも言うのか)は義務である。私ももう何度も経験したが、これはとても良い経験になったし、社会に出て行く上で役に立つと思った。みんな学生は本当に楽しそうに行うが、発表後の反応も明らかで面白い。みんないろいろな質問を投げかけて来るからだ。

 最後に、私が今夢中になっていることを少し書きたい。私は大学で音楽学と作曲を主科、ピアノを副科でとっていた。こちらの大学は理論のみ。環境のせいもあり、残念ながらこちらでピアノは弾けないでいた。そんなときこちらの教会などで行われるコンサートを聴いて、私は無性にオーケストラで演奏したくなった。そんなときにもっともひかれたのがオーボエの音色だった。してついに去年の6月からオーボエを習い始めたのだ。するとこれが思いのほか楽しく、今は毎日吹かないとヘンな気分になるほどである。現在3冊の楽譜を並行してやっているが、もちろん1冊はトニカの皆さんに点訳をお願いし、後の2冊はレッスン時に聴音している。そう、ドイツは日本ほど点訳は普及していないのだ。毎週大量の譜読みに追われているが(私は暗譜しなければいけないので、大変なのだが、本当は健常者はこのぐらいの量をこなしているのだろう)ドイツ語でのレッスンは本当に楽しい。私の中での1つの大きな変化は、以前のようにレッスンで全く緊張しなくなったこと。以前はレッスン前は手はかちかち、心臓はどきどきだったのだが・・・。理由の1つは、ドイツでは日本のように先生と生徒との関係がかしこまっていないのだ。日本ではもちろん先生にはしっかりとした敬語を使わなければいけないし、生徒らしい態度を取るのは当然である。しかしドイツ、いや少なくとも私の先生は違う。これを説明するとまた長くなるのだが、ドイツ語には「あなた」と言う言い方に二通りあり、目上の人や、見知らぬ人と話す時と、友達や家族と話す時では言い方が違う。ふつう師匠とは前者の話し方だと思うのが一般的だが、私達は後者の話し方で会話している。先生のお宅へ行くと、まず握手をし、楽器を組み立てながらなにかしら話しをして、なんとなくレッスンに突入するのだ。もちろん人前で吹くのだから緊張はするが、いつも良い緊張なので、自分の音を集中して聴ける。ドイツでの滞在も残り1年半ほどになってしまったが、最後の半年でも大学のオーケストラで演奏できたらと思っている。

思ったよりかなり長くなってしまったが、今回私はドイツに対する素直な気持ちをストレートに書いたつもりである。

(おおばやし あきこ)

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◎第15回音楽教育振興賞を受賞

ページトップ トニカは音楽教育の発展に貢献した団体を表彰する第15回音楽教育振興賞(助成部門)を受賞致し、毎日新聞をはじめいくつかのメディアに紹介されました。3月28日には東京飯田橋のホテルメトロポリタンエドモントにて授与式が行われました。これも、永年支えてくださいましたユーザーの方々や賛助会員の皆様のおかげです。ありがとうございました。 こちらもご覧ください

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◎編集後記

ページトップ トニカ通信第8号は、海外でトニカの楽譜をご利用のユーザーの方から、現地の生活や音楽のお話を伝えていただきました。いかがでしたでしょうか。遠く離れた異国の地でもトニカの楽譜がお役に立っているようでとても嬉しく思いました。 なお、トニカ通信をメールでお送りすることもできます。ご希望の方は、トニカまでE-mailでご連絡ください。

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